昨今、あるイベントで販売されたマフィンを食べた複数の方が体調不良を訴えた問題が、大きな話題となりました。
この問題はレンタルキッチンを運営するTNERとしても決して他人事とは考えられないものです。レンタルキッチンを利用する製造者のほとんどが、イベント出店による販売を行なっているのですから。
そこでTNERでは、仙台市保健所青葉支所にご協力をいただき、食品の衛生管理に関する勉強会を開催いたしました。
勉強会にはレンタルキッチン利用者を中心に、9名の方が参加。
「安心して食べていただけるものを提供するため」
「衛生上の安全が第一なので」
「賞味期限や保存方法に不安を感じたため」
「衛生的に製造するための留意点を知りたい」
そういった思いを持って参加された皆さんは、メモを取りながら真剣に講師の話に耳を傾け、有意義な学びの時間になりました。
講師を務めてくださったのは、仙台市保健所青葉支所の豊川さん。実際に起きた食中毒事故の事例をもとに、なぜ食中毒が起きてしまったのか?どうすれば避けられたのか?などを詳しくお話しいただきました。
食中毒の原因はひとつじゃない!
食中毒とひとことに言っても、その原因はさまざま。原因となるウイルスや菌の種類によって、特性や対策方法も異なります。
例えば耳にする機会が多い『ノロウイルス』の場合、冷凍や乾燥に強く、消毒薬や加熱の抵抗性も強いという特性が。
さらに感染していても無症状の場合がある、症状が治まった後もウイルスを排出するなど、少し聞いただけでもその厄介さがわかります。
対策方法のひとつである手洗いについても、興味深いお話を聞くことができました。
『ハンドソープで60秒もみ洗い後、流水で15秒すすぎ』
この方法で、手洗いをしない場合と比較するとウイルスの残存率は0.001%まで抑えられるそうです。
ですが、『ハンドソープで10秒もみ洗い後、流水で15秒すすぎ』を2回繰り返すとウイルスの残存率は0.0001%に抑えられるというのです。
つまり、ハンドソープで60秒間洗い続けるより、短時間で2回洗った方がより効果的なのです!
すぐに取り入れられる対策なので、調理時はもちろん普段の体調管理としても実践できますね。
どんなウイルスや菌でも予防のためには『持ち込まない』『つけない』『増やさない』『やっつける』という四原則が大事なのだと言います。
基本中の基本である手洗いや従業員の体調管理がどれほど大切なのかを実感する内容でした。
参加者からは製造時の服装についても質問が。
『必ずこうしてください』という決まりはないものの、ウイルスや菌の特性、予防の四原則がを理解していると、その指針は見えてきます。
例えば『黄色ブドウ球菌』は人の手指や鼻腔、毛髪にも存在しているそう。健康な人でも2∼3割が保菌しているというのが怖いところ。
ですが調理中に『直接手指で触らない』こと、『無意識に顔や髪に触れない』ことができれば、食品に菌が付着するのを防ぐことができます。
調理中には清潔な服装でエプロンなどを着用することはもちろん、手袋やマスク、帽子などの頭髪をしっかり覆い隠せるものを着用すると衛生的だと言えますね。
ちなみに食中毒とは別件ですが、ニットなど繊維が落ちやすい服は異物混入の恐れがあるため調理には向いていないというお話も。同じ理由でスパンコールやビーズ、小さなボタンが付いた服も注意したいところです。
消費者目線でも気になる食品表示
参加者が気になっていたのは食中毒の事だけではありません。包装容器に入れられた加工食品には必ずつけなければいけない食品表示も、関心が高いトピックでした。
表示する項目は食品表示法によって定められており、不備があるとリコール(自主回収)の対象にもなります。
食品表示は購入するお客様に必要な情報を適切に提供するためのものですので、当然不備があってはいけないのです。
食品表示の中にはアレルゲンの表示も必要。令和5年3月には、くるみが義務表示対象品目(特定原材料)に追加されました。製造者はこういった最新の知識を身につけていくことも、とても重要ですね。
『個包装なのに食品表示をしていない』『期限表示が年月日じゃない※1』『明らかに商品と違う名称の表示が付いている』なんてことがあれば、それは食品表示違反の可能性も考えられます。
知識がない、もしくは知識があるうえで違反をしている人が製造した食品かも知れないとなれば、購入するかどうか考えてしまいますよね。
消費者目線で見ても、ちょっとした知識を持っていると自分の身を守る指針になるのではないかと感じました。
※1三ヶ月を超える場合は年月での表示が可能
衛生管理は計画・実行・記録・見直しが大事
飲食関係のお仕事に携わったことがある方はHACCP(ハサップ)という言葉を耳にしたことがあるかと思います。
HACCPとは『微生物による汚染や異物の混入などの危害を予測した上で、危機の予防につながる特に重要な工程を連続的・継続的に監視し、記録することにより、製品の安全性を確保する衛生管理手法(厚生労働省HPより)』です。ちょっと難しいですね。
噛み砕くと、安心安全な食品製造のために、各工程でどういったことに注意し、どんな風に確認をするのか計画を立てること。その計画に則って実行し、記録を残すことが衛生管理の面ではとても重要だということです。
HACCPは2020年6月から食品を扱う全事業者に対して義務化されています。もちろんTNERのようなレンタルキッチンを利用する製造者も例外ではありません。
面倒くさそう……という印象を持つ方もいらっしゃるかもしれません。ですが後から記録をさかのぼれるようにしておけば、適正な衛生管理を行なっていることを確認できますし、万一の場合の証拠書類にもなります。
消費者の安全を守るだけではなく、製造者自身を守るものにもなるのですね。
また、衛生管理計画は一度作成したらOKではなく、実行する中でうまく行かなかったことなどについて考え、見直しをしていくことが大切だというお話が印象に残っています。
常に疑問を持ち、考え、更新していくことが製造者には求められているのではないかと感じました。
これからの製造、販売に活かしたい
ご参加いただいた皆さんからは
「実例を入れながら、わかりやすく教えていただき勉強になった」
「これからの製造、販売に活かしていきたい」
「衛生管理について改めて考えるきっかけになった」
「有意義な時間だった」
などの声をいただきました。
今回の勉強会は、食中毒の大きなニュースが続いたことで、改めて今の衛生管理で大丈夫なのか?という疑問・不安を持ち、仙台市保健所に相談したことから実現しました。
すべてをご紹介することは難しいですが、実際の勉強会ではこの記事の何倍も詳細な内容でお話しいただいています。講習の後には参加者からの個別の質問にも丁寧にお答えいただき、満足度の高い勉強会になったかと思います。
勉強会を通して、衛生管理に関する情報を更新し、考え続ける姿勢が大切なのだと感じました。TNERでも安心安全なレンタルキッチンの運営を行うため、今回のような勉強会を継続的に開催できればと考えています。
お忙しい中資料の準備から当日の講師までをお勤めいただいた豊川さん、そして熱心にご参加いただいた皆さん、ありがとうございました!